爆発の本を読んだ。
最近、化学系の本を読んでいる。化学史入門のような内容が多い。
私には「科学と言えば物理だろ」という偏見がありそっち方面の興味が強い。だから免疫のない化学本を読むことで、今更ながらハーバー・ボッシュ法のすごさに驚いたりしているありさまだ。楽しい。
これとか高校で習ったはずだが、やはり食糧供給体制を変えたとかやドイツが戦争(WWⅠ)に踏み込むきっかけを与えたとかの文脈で説明されると、とても印象に残る。高校の学習を無味乾燥にしないためには副読本の効用が必須だ。
また中世ヨーロッパにも触れ始めたため、あちこちで「錬金術」という単語に出くわす。錬金術は約2000年も続いた。それにしても最終目標を達成できずにここまで持続した営みがあるのだろうか。黄金を生み出すというインセンティブが人々をここまで長く惹きつけ、副産物として化学の土壌(各種発見、器具の開発)を整えてきた。錬金術師たちは間違った方向へ走っていたのかもしれないが、彼らがあれこれ試行錯誤しなければ化学の発展は周回遅れだった。人類を長期にわたり方向性をもって駆動させてくれた錬金術はありがたいものだ。
さて爆発である。
SUPERサイエンス 爆発の仕組みを化学する | 齋藤勝裕 |本 | 通販 | Amazon
この本を読んだ。2時間くらいでサクサク読める。めっちゃ面白かった。
爆発をテーマに爆薬から身の回りの爆発、さらにはビッグバン~恒星の誕生を語るのだが、著者の手際が良くこの辺の知識を楽しくおさらいできる。説明が重複することが多いのが気になるが、基本的に説明は超うまい部類だと思う。というか爆発ってこんな普遍的だったのか・・・!
本書では心をくすぐる用語がちらほら出てきて胸が躍る。
例えば『燃焼による爆発は「爆燃」と「爆轟」に分けられる』という記述。これだけで妙に心をくすぐるのはなぜだろうか・・・。
ちなみに「爆轟」は炎の伝播速度が音速を超えるため衝撃波が発生するド派手なやつで、「爆燃」はそうでもないやつなのだが、この説明だけで面白い。この本ではこういういい感じにくすぐる知識がたくさん出てくる。後で少し紹介したい。
しかし、散発的な雑学よりも全然貴重だった点は、本書には爆発のイメージがクリアになる説明があったことだ。具体的には次の説明を得たことだった。
①「爆薬による爆発は化学的に見れば『燃焼』である」
ただし急激な燃焼である。モノが燃えるには酸素が必要だが、爆発くらい急な反応を実現するには迅速に酸素を供給する必要があり、空気中の酸素では間に合わず酸素供給物質もセットじゃなければならない。
②爆発の威力は「爆発前と爆発後の系の内部エネルギーの差」として表れる
ということで爆薬には内部エネルギーの高いもの(不安定)が、爆発後の生成物としては内部エネルギーの低いもの(安定:二酸化炭素や窒素など)が求められる。
映画やゲームでよく見聞きする「ニトロ」だが、これもなんで爆発物によく使われるのか本書の説明で明快になった。爆発には燃料のほかに迅速な酸素の供給が必要だ。有機化合物はベンゼン環部分が燃料としてよく燃える。さらにニトロ基(-NO2)には酸素原子が2個もくっついて酸素供給力がある(200年も現役を張っている爆薬「トリニトロトルエン」さんなんかは名前の通りニトロ基が3つもついている!)。
燃料と酸素供給が一体化しているのだ!
また、爆発後に生成されるのは水、二酸化炭素と窒素であり内部エネルギー落差も大きい。そのため放出するエネルギーがでかい。
そして安定しているから扱いやすい(これは放出エネルギーを下げる要因だが、あぶなくて使えないよりマシ)。
本書は浅くて広い。燃焼型の爆発だけではなく破裂や核爆弾、ちょっとした火薬の歴史や爆発事故も記載してある(他にもてんこ盛り)。
たとえば火薬の歴史で言えば発明自体は中国だ。ヨーロッパに伝わったあとは爆弾や大砲など応用編が発達した。大砲なんかは爆発に耐える砲身を製造する必要があり製鉄技術が大いに発達したらしい。絶妙な炭素含有量コントロールが求められたことだろう。ちなみに大砲は鐘職人に発注されていた。教会の鐘は大きいだけでなく(全域に聴こえる必要あり)、いい音を出すには錫などの配合に技が求められたためその辺に適性があったのだろう。
ちなみに爆薬と言えばノーベル師匠の秘蔵っ子ダイナマイトだが、現在の土木業界では「アンホ爆薬」なるものに主役を奪われているらしい(ダイナマイトの3倍使われている)。爆発力が大きくて安いのだとか。その昔ソ連が土木に核爆弾を使う実験をしていたというトンデモ話も出てくる(240回くらい実験したらしいゾ(*_*))。
他にもこんなトピックの説明もある。「あぁ気になる、知りたい!」と感じたら是非読んでいただきたい。
・粉塵爆発:
可燃物の粉が舞うと超危険。小麦、砂糖、金属粉などなど。怖すぎ。
・金属爆発:
金属の中には水素を発生して二次爆発を起こすものがある。マグネシウムとか水を掛けると水素出すので、消防隊も砂掛けるか見守るしかできない。燃え尽きるまで待つしかなく鎮火に1週間かかることも。
・活性化エネルギー:
その辺の炭が勝手に燃えない理由。ただしこの峠を越えるエネルギーを与えると自転車操業のように燃焼が維持される。
・有名な爆発事故概説:
パルテノン神殿(そうだったのか!)、ヒンデンブルグ号事件、ツングースカ爆発(水爆クラス!)
・身の回りの爆発:
(あんま興味わかず)けっこうな誌面を割く。つまんなくはない。
・ロケット燃料:
ハイパーゴリック推進剤とか。岡田斗司夫ゼミ観てる人ならテンション上がる(ちらっと出るだけだが)。
・雷:
稲妻(稲の奥さん)と呼ぶのは雷が空気中の窒素(肥料)をイオン化して土壌にしみ込ませるから。ということはゼウスはお稲荷様の妻になるのか。ううむ。
ちなみに著者(齋藤勝裕氏)紹介も面白い。『趣味のアルコール水溶液鑑賞は1日も欠かさず、ベランダ園芸で屋上をジャングルにしているほか・・・』。面白文才のある人なのだろう。
同著者の以下の本もAmazonした。
■SUPERサイエンス 脳を惑わす薬物とくすり
⇒ Netflixで海外ドラマを観ることが多いが、「ブレキング・バッド」にしろ「ナルコス」にしろ「DOPE」にしろ薬物の入門的知識があったほうが絶対楽しめる。というか知らないとドラッグの種類の多さに翻弄されてまう。ってか現代アメリカモノはドラッグ出すぎ・・。
以上、良書でした。